「居住者」と「非居住者」、「非居住者」に対する所得税 ‥国際課税の基本①
新型コロナウイルスワクチンの予防接種が進んできたことなどを背景に、日本企業の海外赴任者が増えているようです。
また、国際結婚をきっかけに、あるいは、最近の富裕層に対する課税強化の動きを受けて、海外へ生活の本拠を移される方も多くおられます。
ただ、このように日本を離れる方は、国内に長らく住んでこられただけに、
・出国までに売却しようとしている不動産が、そのときまでに売れそうにない。海外に赴任して後になりそう‥。出国後に売れたときの、税金計算はどうなるのだろう?
・賃貸料収入がある不動産(国内)をもっている。このまま、継続保有したいのだが、確定申告は?
・原則、給与関係や年末調整などは勤務先対応と思うが、個人として、最低限、知っておくべきことは?
・あるいは、親などに相続が発生したときの注意点は?
など、ご自身の財産や所得にかかる税金について、疑問をいだかれることが多いと思います。
ついては、海外赴任や、プライベート事情で海外へ移住またはロングステイされる方など念頭に、国際税務にかかる基本情報を 何回かに分けて発信します。
今回は、個人の国際税務の土台となる、日本での課税区分、「居住者」と「非居住者」の判定基準(境界)などについて記します。
なお、国際課税の大枠を理解いただくことを目的にしております。網羅性などより、わかりやすさを重視していることをご了承ください。
目次(Table of contents)
「居住者」と「非居住者」(基本)
所得税法において、課税される個人は、以下のように、「居住者」と「非居住者」と二つに区分されています。
居住者 | 国内に住所を有し、または現在まで引き続いて 1 年以上居所を有する個人 |
非居住者 | 居住者以外の個人(※) ※ 言いかえますと、次のいずれかに該当する個人となり、ともに「国内に住所を有していない」が含まれています。 ①国内に住所および居所を有していない個人 ②国内に住所を有しておらず、かつ、居所を有する期間が現在まで引き続いて1年未満である個人 |
最大のキーワードは、「住所」です。
(「居所」は、「住所」以外の場所で、「その人が、相当の期間、現実に居住している場所」とされています。ホテルやウイークリー・マンションなどに、何らかの事情があって、住み続けている方をイメージください。)
「住所」は、各人の「生活の本拠」をいい、その判定基準は、形式的・数量的なものでありません。
その方にとって「生活の本拠」かどうかは、
・住居はどこにあるか(生活の実体)、
・どこでどのような職業についているか、
・生計を一にする配偶者や親族の居所はどこにあるか、
・金融資産はじめ財産はどこにあるか、
などについての「客観的事実」によって判定する、とされています。
(日本での国籍の有無は、関係しません)
しかし、このような判定ルールでは、「住所」つまり「生活の本拠」は、国内にあるのか否かの判断は難しいですよね。
そこで、法令では、「国内に住所を有していない個人」について、以下の「反対の事実や証拠がなければ、一応このように取り扱う」(推定規定)(※)を設けています。
※ 来日する外国ビジネスマンなどを念頭に、「国内に住所を有する個人」についての推定規定もありますが、本記事では省略します。
① | 国外において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること |
② | 外国の国籍または外国での永住許可を受けており、かつ、国内において生計を一にする配偶者等を有しないことそのほか国内における職業及び資産の有無等の状況に照らし、再び国内に帰り、主として国内に居住するものと推測するに足りる事実がないこと |
これに従えば、人事異動の辞令に基づく海外勤務による国外勤務地での在留期間が 1 年を超えることが明らかであると認められる場合などは、その出国の日の翌日から「非居住者」となります。
「非居住者」に対して、所得税が課せられる範囲
「居住者」と「非居住者」では、日本で課税対象となる所得の範囲は大きく異なります。
「居住者」は、国外にある財産や国外での「かせぎ」に起因するもの(国外源泉所得)を含め、すべての所得(全世界所得)に対し所得税が課せられます。
これに対し、「非居住者」については、「国内源泉所得」と呼ばれる、その所得が生じた場所や原因が国内であるものに限り、所得税が課せられます。
(ついては、日本の税法にしたがって、申告・納税しなければなりません)
「非居住者」にとっての「国内源泉所得」の代表例は、
・国内不動産から生じる賃貸収入、
・国内にある(残した)資産の売却収入、
・内国法人から受ける配当、
などにかかる所得です。
「居住者」と「非居住者」(補足)
「183日ルール」
外資系企業に勤務し、海外との往来が多い友人より「1年間の過半数超である183日以上を海外で過ごせば、『非居住者』になるよね?」との質問を受けたことがあります。
インターネット上でも よく取り上げられている、「183日ルール」と呼ばれるものですが、答えは「No」です。
この「183日ルール」は、租税条約(※)において、「給与所得の課税権は、どちらの国が有するか?」を判断するときに、一般的に適用される考え方です。
※ 租税条約とは、同じ所得に対する二か国による重複した課税(二重課税)の排除や、脱税・租税回避などの防止を目的として、ある国と ほかの国が二国間(原則)で締結している租税に関する条約です。日本は、本年10月1日現在、145の国や地域と適用中。
日本の所得税・法令において、各人の「生活の本拠」を判断するとき、こうした滞在日数による要素は規定されていません。
「居住者」と「非居住者」の判定上、まったく「別もの」の概念です。
「住民票」との関係
「住民票を日本に残しているか、いないか」も、所得税における「居住者」と「非居住者」の区分に、直接の影響を与えません。
「住民票を日本に残している」人でも、「生活の本拠(=住所)」と「居所」の双方が日本国内になければ、所得税法上、「非居住者」です。
逆に、出国するときに「住民票を抜いている人」でも、「生活の本拠」が日本国内ならば、「居住者」となります。
ちなみに、住民税では、「住民票を日本に残しているか、いないか」は納税義務にリンクします。
「その年の1月1日に、日本の市町村の住民基本台帳に記録されている」ことをもって、原則、住民税は課税されます。
混同しがちかもしれませんが、「住民票」との関係性は、所得税と住民税において異なります。
むすび
次回は、「『非居住者』が、日本国内で所有する不動産を売却したときの税務」について記します。
以上
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