【令和4年度税制改正大綱】高額な資産保有者への課税監視の強化…保有10億円以上なら所得ゼロでも報告義務

「令和4年度税制改正大綱」については、「資産税」に関し、
①「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」の非課税枠の縮小と、2年間の延長、
②「暦年課税」制度に、「見直しのメス」は入らなかったこと、
をお伝えしてきました。

本日は、「資産税」について もう一つ記します。

高額な資産保有者を念頭に置いた報告制度の見直しが明記されました(適用開始は、令和5年分(2023年)以降)。

保有財産の価額の合計額が10億円以上ならば、所得の多寡にかかわらず保有資産の状況報告の提出が義務付けられることになります。

近年、その度合いを増している「富裕層」あるいは「ストック面」への課税監視の強化の一環です。

目次(Table of contents)

現行の報告制度(「財産債務調書」制度)の概要

現行の報告制度は「財産債務調書」制度と呼ばれ、国が、所得税・相続税の申告の適正性を確保すべく、平成27年度の税制改正により設けたものです。

一定の基準に該当する個人は、その年12月31日現在における「財産債務調書」の作成と提出が義務付けられています(「要記載事項」・「提出期限」等は、後述します)。

ただ、制度上提出義務者は、一定の「高額所得者」に限定されていました。

現行の提出義務者(適用対象者)

概要は下表の、「所得」基準「資産額」基準双方を満たす個人です。

極端‥と思いつつも、一例をあげます。

ここに、年末時点で合計30億円の財産を保有する資産家がおられます。

一方、その方の年間所得金額は、300万円です。

財産債務調書」を提出する必要は、あるでしょうか?

答えは、「提出不要」です。

所得金額は 300万円と、「所得」基準の「2,000万円超」に抵触しないため、提出義務はありません。

「所得」基準その年分(1月~12月)の所得金額が2,000万円えること
「資産額」基準その年の12月31日において有する、
財産の価額の合計額3億円以上であること、
または
有価証券等の価額の合計額(※)1億円以上であること

正確には、「国外転出時課税制度の対象資産の価額の合計額」です。

そのほか

「財産債務調書」への要記載事項

名前の通り、「財産」と「債務」の双方です。

「財産」については、
①種類(有価証券については、銘柄別に記載)
②用途、所在地
③数量、
④価額(※)(有価証券等について、取得原価も記載)
など。
その年12月31日における「時価」、または時価に準じる価額として「見積価額」

ちなみに、「財産」は、土地・建物・貴金属などのほか、暗号資産等も含みます。
また、国内のみならず、国外にある資産も対象です。

「債務」については、債務の金額です。

税務署長への提出期限

・「その年の翌年の3月15日まで」です。

税制上のペナルティなど

この制度の実効性を高めるために、設けられています。

所得税や相続税の申告について、その「財産債務調書」にかかる財産等について所得相続財産申告もれがあったとき‥、

1.この調書に記載されていないものにつき、申告漏れ部分の過少申告加算税または無申告加算税の割合を5%加重

一方

2.一方、この調書に記載されていたものについては、申告漏れ部分の過少申告加算税または無申告加算税の割合を5%軽減

されます。

「令和4年度税制改正大綱」での見直し

「提出義務者(適用対象者)」の追加

先ほど書きました、現行の「財産債務調書」の提出義務者のほかに、新たな提出義務者として、「その年の12月31日において有する財産の価額の合計額が10億円以上である居住者(※)を提出義務者とする」との一文が加わりました

(※)「居住者」については、以下のブログをご覧ください。
「居住者」と「非居住者」、「非居住者」に対する所得税 ‥国際課税の基本①

この新たな提出義務者については、所得の多い少ない(「所得」基準)は、一切考慮されません

単純に、「資産額」の規模だけに着目します。

極論すれば、その年分の所得がゼロである居住者(※)であっても、その年末の保有財産の合計額が10億円以上ならば、「財産債務調書」の提出義務が生じます。

さらに言えば、その年分の損益通算後の所得の計算において、純損失の金額(赤字)が生じている居住者も該当

そのほかの改正事項…提出期限の緩和など

提出期限は、現行と比較し、2.5カ月 緩和され、「その年の翌年の6月30日」となる予定です。

また、要記載事項の一部につき、所在別に区分することなく「まとめての記入」が認められる方向です。

こうした提出期限の緩和などは、高額所得者・資産家の事務負担の軽減を考慮したものです。
(翌年3月15日までの提出期限までに、その年の12月末時点の全財産を、そのときの時価ベースで取りまとめるのは、かなり大変です)

むすび

保有財産10億円以上の資産家は、ごく一握りかもしれません。

とはいえ、資産が偏在しているとされる高齢世代に、今後、相続が相次いで発生することなどにより、この新たな提出基準に該当する方は増えるでしょう。

以前のブログに記しましたが、国税庁は、先月発表の「6月までの1年間(2020事務年度)の所得税などの調査状況」資料にて、有価証券・不動産等の⼤⼝所有者などの「富裕層」に対する積極的な調査の実施をかかげています。

今後も、適宜、こうした課税監視強化の動きを取り上げます。

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