円安が進んだ2021年、国外財産を保有する方は、本年末での「国外財産調書」の提出義務のチェックを‥国際課税の基本④

ここ数日は、一服していますが、2021年は円安に振れた1年と言われています。

ドル・円レートで確認します。

昨年の12月30日のドル円レートは、103.52円。

これに対し、今日の東京市場取引開始レートは113.66円と、10%弱の円安・ドル高です。

申すまでもなく、経済のグローバル化を受け、為替変動は、収益フローに影響を及ぼします(法人のみならず、個人事業においても)。

ただ、もう一点見逃せないのは、為替変動による財産ストック面への影響です。

この一年で、現地通貨ベースの国外保有財産の価額(時価)は変わらないとしても、円ベースでは、価額は10%余りアップしています。

本日は、国外財産をお持ちの個人が、円ベース時価で、年末基準でチェックすべき「国外財産調書制度」の概要を記します。

「国外財産調書制度」の対象となる「国外財産」とは?

法令では、「国外財産調書」への記載の対象となる「国外財産」とは、「国外にある財産をいう」とされ、財産が「国外にある」かどうかの判定については、原則、「財産の所在地」によります。

国税庁は、そのHP(「国外財産調書の提出制度(FAQ)」)にて、「財産の所在地」を細かく例示していますが、代表的なものは以下となります。

財産の種類所在地
不動産その不動産の所在地
→ 例:ハワイに購入したホテルコンドミニアム、海外勤務時などに購入した現地不動産(今は、第三者へ賃貸中など)
金融機関に対する、預金・貯金・積金などその金融機関の営業所(支店)または事業所の所在地
→ 例:かつて居住した海外で開設しそのまま保有している、銀行口座内の預金
保険金その契約にかかる保険会社などの本店等の所在地
→ 例:本社が海外の生命保険会社と契約した生命保険契約
社債もしくは株式、法人に対する出資など①金融証券取引業者等の営業所等に開設された口座に係る振替口座に記載等がされているときは、その金融商品取引業者等の営業所等の所在地
→ 例:かつて居住した海外で開設しそのまま保有している、証券会社口座内の株式

②上記の①以外は、発行法人などの本店の所在地等

「国外財産調書制度」の概要

この制度は、国外財産にかかる所得や相続税の申告もれなどが、近年、増加傾向にあることを背景に、国が適正な課税を図る観点から導入したものです。

制度概要は、このセクション末尾にまとめていますが、ポイントを順に記します。

適用対象者(提出義務者)

国外財産の、その年の12月31日における邦貨換算による時価または見積額合計額5,000万円える「非永住者以外の居住者」となります。

「非永住者以外の居住者」

非居住者以外の居住者」とは、次の①または②のいずれかに該当する個人(「居住者」です)のうち、③または④のいずれかに該当するものを指します。
①国内に住所を有する者
②国内に現在まで引き続いて1年以上居所を有する者
③日本国籍を有している居住者
④日本国籍を有していないが、過去10年間のうち、5年を超える期間、国内に住所または居所を有する居住者

イメージとしては、「日本に生まれて、日本にずーっと住む『一般的な、日本人』」のほか、
日本国籍のままで、長年海外に住みビジネスを行ってきたが、近年日本に帰国し日本に「生活の根拠=住所」がある個人、
・かつての日本の高度成長期に海外へ移住していたが、7年前の配偶者の死亡などを機に、日本に帰国し日本に住所を有する個人、
なども対象になります。

邦貨換算

適用対象者の取引金融機関が公表する、その年の12月31日(その日に相場がないときは、同日前の相場のうち、同日に最も近い日)の「外国為替の売買相場」となります。

例を、あげます。

昨年の夏、460千US$にてハワイのホテルコンドミニアムを購入した個人(日本国籍。ほかには、国外財産なし)を想定ください。

購入時から現在までの、物件のUS$ベースの価額(時価)がUS$460千ドルとすると…

1.昨年末の邦貨換算は、
⇒ 460千US$ × 103.52円/US$ ≒ 4,762万円 ≦ 5,000万円

2.これに対し、本年末の「外国為替の売買相場」が、今日の取引開始値と同一と仮定すると、本年末の邦貨換算は、
⇒ 460千US$ × 113.66円/US$ ≒ 5,228万円 > 5,000万円

となり、昨年の判定時点(2020年12月31日)では提出不要であった「国外財産調書」は、本年の判定時点においては、提出義務が生じます。

税務署長への提出期限

その年の翌年の3月15日まで」です。

ここで大切なことは、所得税などの確定申告が不要な場合でも、上記に該当する個人には「国外財産調書」の提出義務があることです。

冒頭に記した通り、この制度が、国(税務署)が個人の国外財産をストック面で把握することを目的としているためです。

年間の「もうけ」の多寡とは、無関係です。

税制上のペナルティなど

国は、この制度の実効性を高めるために、いくつかの規定を設けています。

まずは、所得税や相続税の申告について、国外財産にかかる所得相続財産申告もれがあったときの過少申告加算税または無申告加算税加減算です。

次に、故意の虚偽記載などについては罰則規定(刑事罰)を整備していることです。

以下の場合などに、1年以内の懲役または50万円以下の罰金に処せられることがあります。
・国外財産調書の虚偽記載による提出
・正当な理由のない国外財産調書の提出期限内の不提出

プラスα … 国は、一(いち)個人が保有する海外の預金口座を把握できるのか?

答えは、基本的に「YES」です。

主には、非居住者にかかる金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である『共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)』という枠組みに、わが国も入っているためです(交換対象国は、2021年1月時点で104カ国・地域)。

CRS による報告事項は、氏名や住所などのパーソナル情報のほか、
・口座の残高、
・資産の運用や保有による利子や配当の受取金額、
・株式の譲渡金額、
などです。
(CRSについて、より詳しくは、別のブログにて記します)

〇制度の概要(まとめ)

項目内容
適用対象者(提出義務者)その年の12月31日において、その価額(邦貨換算ベース)の合計が5,000万円を超える国外財産(※)を有する「非永住者以外の居住者」
相続または遺贈により取得した国外財産は、その相続開始年の12月31日時点の判定上、除外します
記載事項・適用対応者の住所・氏名・個人番号など、
・国外財産の種類・所在・数量・価額など、
税務署長への提出期限その年の翌年の3月15日
→ 所得税などの確定申告が不要な場合でも、該当する個人には提出義務があります
所得税や相続税の申告にて、国外財産にかかる申告漏れがあったときのペナルティなど・国外財産調書に記載されていないものにつき、申告漏れ部分の過少申告加算税または無申告加算税が5%(一定の場合、10%)加重
・一方で、申告漏れがあった財産につき、この調書に記載されていたものに関しては、その申告漏れ部分の過少申告加算税等は5%軽減(一定の場合、軽減なし)
罰則規定(刑事罰)正当な理由のない国外財産調書の不提出等については、1 年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金

むすび

11月25日の日経新聞に報じられていますが、国税庁は、先日、6月までの1年間(2020事務年度)の所得税などの調査状況を公表しました。

その公表資料において、「トピックス(主な取組)」として真っ先に掲載されているのは、
・有価証券・不動産等の⼤⼝所有者、
・経常的な所得が特に⾼額な個人、
・「海外投資等」(※)を積極的に⾏っている個人など、
いわゆる「富裕層」に対する積極的な調査の実施です。
「海外の不動産、証券などに対する投資(預貯⾦等の海外での蓄財を含む。)」と定義

とりわけ、「海外投資等」を行っている「富裕層」への調査データは掘り下げられて、一表に掲げられています。

税金に関して、「その年の12月31日」が節目になるものは、いくつかあります。

そのなかでも、「国外財産調書制度」は「海外投資等」に直結しているだけに、的確な対応が求められます。

円安による邦貨ベースの価額上昇効果は、無視できません。

「購入時の為替レートなどで判定すると思っていた。そのため、国外財産の価額の合計は5,000万円以下ゆえ、提出不要と考えていた‥」とならぬようご注意ください。

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