【令和4年度税制改正大綱】 注目されていた「暦年課税」制度については、改正(見直し)なし

令和4年度税制改正大綱」(以下、令和4年度大綱)において注目されていた「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点」からの改正は、盛り込まれませんでした。

発端は、一年前の「令和3年度税制改正大綱」での「暦年課税」制度見直しの明記

「年間110万円の基礎控除額の範囲内の贈与なら、無税で財産を移転することができる」、この広く知られた「暦年課税」制度に見直しが入るのか否か、この1年間、税理士業界のみならずマスコミ各誌でも報じられてきました。

ことの発端は、一年前の「令和3年度税制改正大綱」の「基本的考え方」にて、
・諸外国の制度を参考にしつつ、
・「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点」から、
・現行の贈与税の課税制度のあり方を見直すなど、
・「本格的な検討を進める」、
と明記されたことです。

(①贈与税の概要、②なぜ「暦年課税」は問題視されているのか?等については、以下のブログに記しています)

〇生前贈与(110万円控除の暦年課税)が認められなくなる? 生前贈与をひもとく①


ビジネス誌だけでなく、この年末(贈与税の計算単位は、毎年1月1日から12月31日まで)が近づくにつれ、一般の週刊誌も「暦年贈与のチャンスは、あと2回…」などのタイトルを付して相続対策に関する特集記事を組んできました。

「令和4年度税制改正大綱」には盛り込まれず。しかし、「暦年課税」制度見直しの方向性は不変

冒頭に記したように、令和4年度の改正項目には、あげられていません。

しかしながら、「令和4年度大綱」の前半に掲げられる「基本的考え方」の「相続税・贈与税のあり方」の結論部分は、以下のように述べています。

今後、諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年贈与制度の在り方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める

令和3年12月10日に与党から発表の「令和4年度税制改正大綱」の13ページより。太字は、ブログ筆者。

このまとめ部分の表現は、一年前の「令和3年度税制改正大綱」と同じです。

細かくなるので、詳細は省きますが、この「令和4年度大綱」の「基本的考え方」には、「高齢世代の資産が、適切な負担を伴うことなく世代を超えて引き継がれることとなれば、格差の固定化につがりかねない」などの記述が追加されています。
(政府の課題意識が、より明確になっています)

暦年課税」制度見直しに向け、政府の「本格検討を進める(≒ ほんとに、やるぞ!)」のスタンスは、変わっていません

このほか…「経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置」の見直しの必要性を言及

令和4年度大綱」の「基本的考え方」の末尾には、前年度の大綱にはなかった、以下の文章が加わっています。

あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では家庭内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある。

令和3年12月10日に与党から発表の「令和4年度税制改正大綱」の13ページより。太字は、ブログ筆者。

ここで、「経済対策として現在講じられたいる贈与税の非課税措置」とは何を指すのでしょうか?

わたしは、高齢世代から消費意欲が高い若年世代への早期の資産移転を意識し設計され、かつ、令和5年(2023年)に適用期限を迎える、概要以下の非課税措置のことと考えます。

非課税措置対象となる贈与の資金使途非課税限度額適用期限
直系尊属からの教育資金の一括贈与入学金や授業料などの教育費、塾の費用など1,500万円令和5年(2023年)3月31日
直系尊属からの結婚・子育て資金の一括贈与結婚に伴う費用、出産・育児にかかる費用など1,000万円令和5年(2023年)3月31日

いずれの制度も、細かな適用要件や期限などが設けられています。実際のご利用にあたっては、税理士(あるいは、取り扱い金融機関等)にご確認・ご相談ください。

近年、顕著になっている相続税・贈与税の「課税の強化・制限」の流れが、今後、これらの非課税措置へ さらに及びそうです。

〇 贈与税にかかる、近年の主要改正項目

年度課税の強化・制限軽減・緩和
2012・住宅資金等資金贈与の拡充
2013・贈与税(暦年課税)の最高税率引上げ・子や孫等が受贈者となる場合の税率(暦年課税)構造を緩和
・相続時精算課税贈与の適用対象者範囲拡大
・教育資金一括贈与の創設
2014
2015・住宅取得等資金贈与の拡充(非課税枠、最大3,000万円に)
・結婚・子育て資金一括贈与の創設
2016
2017
2018
2019・教育資金一括贈与の一部見直し
(受贈者の所得要件設定ほか)
2020
2021・教育資金および結婚・子育て資金一括贈与の、一部見直し
(孫等の場合、相続税額の2割加算ほか) 
2022・住宅取得等資金贈与の非課税枠の縮小(最大1,000万円に)

まとめ

「令和4年度大綱」をもって、あたり前のように使われている「暦年課税」制度に、抜本的見直しが入ることはありませんでした。

子や孫、あるいは、甥(おい)や姪(めい)などの次世代に、資産や想いを届けたいと考えているシニア層にとっては、一安心でしょう。

ただ、政府・与党が目指す方向性は変わっていません。

シニア層におかれては、
・まずは、ご自身のゆとりあるライフプランを裏付けるマネー・ストックおよびマネー・フローをチェックされたうえで、
・「効果の高い方法で、心のこもった贈与」を、より早く検討されること
をおすすめします。

以上

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