生前贈与(110万円控除の暦年課税)が認められなくなる? 生前贈与をひもとく③…孫への生前贈与(「贈与契約書」のサンプルつき)
昨年末の税制改正大綱により打ち出された「相続税と贈与税の一体化」などの動きを契機に、祖父母から孫への「暦年課税」贈与(以下、生前贈与)の関心は高まる、とみます。
今回は、
・その理由、
・および、孫への生前贈与を実行するときの注意点、
を記します。
目次(Table of contents)
孫への生前贈与の関心が高まる理由(祖父母にとってのメリット)
いわゆる「一代飛ばし」となる
祖父母から見て、孫世代への財産の移転は、通常、
・祖父母から子へ、
・そして、子から孫へと、
二回、相続税を支払うことにより実現します。
一方、孫世代への贈与による移転は、一回の贈与税の支払いで済みます。
つまり、一回、相続税の支払いを避けることができるため、「一代飛ばし」となります。
もちろん、生前贈与にかかる税率は高く(相続税の税率も高いですが)、かつ、その税率は、贈与税の課税ベースが高くなればなるほど重くなります(累進税率)。
したがって、正確なタックス・プランニング(どの程度の額を生前贈与するのが有効なのか、等)には、ほかの要素も加味したうえ、
・祖父母から子、
・そして、子から孫へ
と、相続した場合の負担額等と比較(試算)することが大切です。
「相続開始前3年以内の贈与財産の相続財産加算」の対象外
生前贈与をして3年以内に亡くなると、その相続開始前3年以内の生前贈与財産の価額は、相続財産に組み戻し(加算)され、相続税を計算します(この3年内贈与にかかる納付税額は、算出された相続税から控除)。
ただ、この取り扱いは、「相続人への贈与」に限られています。
「相続人以外への贈与」は対象外なのです。
したがって、祖父母からみて、息子あるいは娘が存命ならば、孫への贈与は、基本的に、この加算の対象外となります。
しかし、祖父母の相続に関して、息子あるいは娘が存命であっても、
・孫が死亡保険金を受け取る、
・あるいは、遺言により、孫が財産をもらう、
場合などは、孫は「相続人」となるため、この加算の対象となります。
ご注意ください。
20才以上の孫への贈与には、緩和された税率(特例税率)が適用される
贈与を受けた年の1月1日現在、20才以上(※)の孫(および、実子)への贈与は、「特例贈与」として、緩和された税率(以下、特例税率)が適用されます。
※:2022年4月1日以降の贈与については、18才以上。
「特例税率」は、「110万円基礎控除後の課税価格」300万円超のゾーンにて、通常の税率と比べ、税率の「あがり方(累進性)」は緩やかになります。
下表は、「110万円基礎控除前の贈与財産の価額」ベースにて、「どの程度の贈与税額が軽減されるのか? また、贈与税の実効税率は?」を試算したものです。
ちなみに、法定相続分でのあん分ベースで、相続税の課税遺産総額が5,000万円を超えると、限界的に適用される相続税率は30%以上となります。
贈与年の1月1日に20才以上のお孫さんを持つ方に限るものの、このポイントに着目した生前贈与によって、より大きい節税効果を得る可能性があります。
贈与財産の価額 (基礎控除前) | 「一般の税率」での税額‥① | 「特例税率」での税額‥② | 減少額 (②-①) |
500万円 | 53万円 <実効税率11%> | 48.5万円 <実効税率10%> | △4.5万円 |
1,000万円 | 231万円 <同 23%> | 177万円 <同 18%> | △54万円 |
1,500万円 | 450.5万円<同 30%> | 366万円 <同 24%> | △84.5万円 |
2,000万円 | 695万円 <同 35%> | 585.5万円 <同 29%> | △109.5万円 |
孫への生前贈与を実行するときの注意点
「贈与契約書」に、親権者(法定代理人)としての親の署名・捺印が必要
まず、贈与契約について、おさらいをします。
・「あげますよ」という贈与者の意思、
・「いただきます」という受贈者の意思、
この双方の意思が合致(合意)して、「贈与」は成立します。
民法では、「合意」を成立させるためは、「自分の行為のもたらす結果を予測し、これに基づき自ら判断する能力」=「意思能力」が必要とされます。
そして、「『意思能力』を欠く人」がした法律行為(含む、贈与契約)は無効とされ、こうした人が法律行為を行う場合には、法定代理人が代理して行うことが求められます。
法律論が長くなりましたが、本論に戻ります。
受贈者たる孫が、乳幼児、あるいは、小学低学年生の場合は、「意思能力」がないのは明らかですね。
では、10歳以上の児童、さらには、中学生以上となれば、いかがでしょうか?
「未成年者とはいえ、中学生にもなれば、『贈与』が何を意味するか分かっているだろう」と、お感じかもしれません。
ただ、今の民法は、以下の考え方から、原則「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない」と定めています。
(考え方)
・法律行為のつど、意思能力の有無を証明するのは困難、
・また、意思表示をする能力が不十分な事案において、未成年者本人を保護するため、
など。
したがって、受贈者が中学生や高校生であっても、未成年者については、原則、法定代理人たる親権者(親)の同意が必要となります。
以下は、法定代理人たる親権者の署名・捺印欄を加えた、贈与契約書のサンプルです。
210827_未成年者意思能力なし_贈与契約書ひな型贈与したお金の管理(支配)は、親に委ねる
「民法的」だけでなく、「税務的」にも、贈与を成立させることが肝要です。
税務署は、
① 孫は、意思能力を欠く、あるいは、意思能力は不十分、
② かつ、孫への贈与は「一代飛ばし」となるだけに、
③ 有効な贈与契約書の締結など、「民法的」な成立条件は満たしていても、
④ 実態として「誰が、お金=財産を、管理・支配しているか?」を、より厳格にチェックする、
と、お考えください。
ついては、銀行振り込み(※)の場合、キャッシュカード、預金通帳および印鑑は、親権者たる親が、代理人として保管します(なお、親が、自身のためにその口座のお金を使うなど、未成年者の不利益となる行為は、NGです)。
※ 乳幼児であっても、一定の書類を整えれば、親権者による銀行口座開設は可能です。
詳しくは、各金融機関に、ご確認ください。
ゆめゆめ、贈与者たる祖父母が保管してはいけません。
祖父母の管理下にある場合、「孫の受贈者の名義を借りているだけ。財産の移転は無かった」とみなされます。
贈与税の「申告」は、親が代理して行う。が、「納付」は、孫の財産から
贈与税の「申告」は、親が代理
税務申告は、原則、納税義務を負った本人または税理士のみが行います。
しかし、乳幼児などの意思能力を欠く人、あるいは、中学生以上であっても、申告書の作成が困難なケースは、十分に考えられます。
そこで、基礎控除額110万円を超える贈与を受け、未成年者である孫に贈与税の申告義務が発生するときは、原則、親権者たる親が「代理人」となって贈与税の申告を行います(※)。
これは、親権者に未成年者の財産を管理する権利・義務があるため、とされています。
(※)おおむね中学生以上の一般に「『意思能力』を有しているとみられる未成年者」は、「原則、法律行為を行うには親権者の同意が必要」という制約はあるものの、申告書の作成提出は、法律行為でないため、単独で行い得ると解されています。したがって、こうした未成年者は、自身で申告しても差し支えない、とされています。
「納付」は、孫の銀行口座(財産)より
納税額が発生する場合、税金の納付は、孫の銀行口座(財産)から支出します。
なぜでしょうか。
贈与税の納税義務を負っているのは、受贈者たる孫だからです。
親権者たる親は代理で申告しますが、あくまで、「申告手続きのみを代理している」だけです。
現実問題として、親権者たる親が銀行へ足を運び、税額を納付するときであっても、孫の口座から引き出した現金など孫の財産から、贈与税を支払わなければなりません。
仮に、親権者が納付額を負担すると、孫が支払わなければならない税金を肩代わりしたになるため、贈与とみなされ、金額次第では贈与税が発生する可能性があります。
むすび
最後まで、お読みいただきありがとうございました。
孫を持つシニア世代には、節税のためだけでなく、ピュアーに「孫の成長を後押ししたい。贈与を検討しようか…」などとお考えの方も少なくない、と思います。
ほかにも、孫世代への「暦年課税」贈与についての留意点は有りますが、本日は主なところを記しました。
ご参考になるところあれば、幸いです。
以上
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