生前贈与(110万円控除の暦年課税)が認められなくなる? 生前贈与をひもとく②‥「贈与契約書」の書き方(サンプルつき)

本日は、
・「贈与」の基本、
・「贈与契約書」作成の際のチェックポイント、
などを記します。

「贈与」の基本

「贈与」については、税法でなく、民法(549条)で以下のように定められています。

贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受託することによって、その効力を生じる。

ポイントは、以下です。
財産を無償で与える、つまり「あげますよ」という「意思表示」
①を受諾する、つまり「もらいます」という「意思表示」
③そして、お互いが、①と②を確認しあうことによる「合意」。

なお、「贈与」の「意思表示」は、書面(契約書)でも、口頭でも構いません。

ここで、「意思表示」あるいは「合意」の文脈で問題になってくるのは、
・贈与者が、認知症などの診断を受けているケース、
・また、受贈者が、子ども(ないし、未成年)であるケース、
です。

こうしたケースについての法律的な捉え方、また、税務実務上の留意点は、結構なボリュームになるため、次回に記します。

なぜ、「贈与契約書」の作成が好ましいのか?

さきほど、「『贈与』の『意思表示』は、書面でも口頭でも構わない」と書きました。

では、なぜ、「贈与契約書の作成が望ましい」と言われるのでしょうか?

税務の観点では、税務署に対し、
・「この財産は、家族あるいは他の三者へ移転した。もはや、自分のものでない」、
・来たる相続のときに「この財産は、相続財産から除外されるべき」、
など証明(疎明)するためです。

「暦年課税(110万円控除)」贈与は、前回のブログ(⇒ こちら)に書きましたが、
・好きなときに、
・好きな人へ、
・好きな金額を
贈与できるなど、「使い勝手」は すこぶる良好です。

そのため、贈与者がお亡くなりになられた後の相続税申告において、税務署との間で「この資金移動は、本当に贈与なのか? = 贈与は、本当に成立しているのか?」が問題になりやすいのです。

贈与の成立を、より客観的に証明できるのは、口頭ですか? それとも、書面ですか?

明らかに、書面=贈与契約書ですよね。

「万全」とまでは言えません(※)が、税務調査に備える観点から有効とされるゆえんです。

より「万全」とするには、公証役場での確定日付の付与(費用、一件700円)をおすすめします。
「この契約書は、後日に作成されたのではないか? 過去の日付を記し契約書を作成することは、可能ですよね?」などの嫌疑をかけられる可能性を排除するためです。


とはいえ、コスト以上に、公証役場へ足を運ぶことが面倒に感じられるかもしれません。
ただ、タックス・プランニングのため多額の「暦年課税」贈与を実行されるときなどは、ぜひ、ご検討ください。

 

「贈与契約書」の書き方

以下をサンプルとして、チェックポイント(振込み口座、署名、印鑑)ごとに記します。

210823_贈与契約書ひな型-1

1.振込み口座
現金手渡しでなく、「銀行振り込み」が基本です。
「贈与事実」を、客観性に示しやすいためです。

加えて、受贈者の受取り口座は、受贈者が、
日ごろの生活資金を引出す口座
・あるいは、公共料金やクレジットカードなどの自動引き落し口座
を、おすすめします。

なぜか?

今日の直接の論点ではないのですが、税務署は、いわゆる「名義預金」に該当するか否かの判定において、「受贈者は、その口座からのお金の引出しなどの管理(支配)を、実質的に行っているか?」を、吟味するためです。

上記の「日ごろの生活資金を引出す口座」や「自動引き落し口座」などは、受贈者自らが管理している口座そのものです。


2. 署名
可能な限り、「自署」としてください。

なぜなら、税務署は贈与契約書に限りませんが、税務調査で、ごくごく普通に筆跡確認(銀行の入出金伝票や貸金庫開庫依頼書など)を行うためです。

ただ、腕や手などに障害をお持ちの方で、「自署」が困難なときは、PCなどで印字されたものでも良いと考えます。

3. 印鑑
実印でも認印でも、構いません。

また、実印を用いられるとき、印鑑証明の添付までは不要(令和2年度の確定申告の際、某税務署に確認しました)。

なお、当然のことながら、「受贈者」と「贈与者」の印鑑は異なってきます。

4.そのほか
(1)贈与者が、贈与するおカネを「振り込み元口座」へ集中するまでのタイムラグがあること等により、「贈与の契約日」と「振込み日」が、異なるケースがあります。

こうした場合、「贈与による財産の取得時期」(納税義務の発生時期や申告期限等に影響)は、「贈与の契約日」となります。


(2)現金贈与の場合、印紙は不要です。

以上

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