不動産賃貸業開始前のリフォーム工事費用は、その年の経費(必要経費)になるのか?
会社員を辞めた直後の2021年3月、東京国税局の確定申告電話相談員や所属税理士会支部の同無料相談会に従事した際に、お問い合わせの多かった項目です。
ご本人やご親族がお住みになられてきた古家やマンションを、第三者へ新たに賃貸するため、
・畳またはフローリング、ふすまや壁紙の張り替え、
・洗濯機置き場や給湯器など水回り設備の更新、
・さらには、経年劣化した外壁等の塗り替え、
などのリフォーム工事をされた納税者から、
「どのように、処理したら良いのか?」または
「『修繕』ゆえ、一括で経費にできると聞いたが、大丈夫?」
などの質問を、相当数いただきました。
こうしたリフォーム工事は、金額的にかさみます。
・必要経費(以下、経費)となるのか? 否か?
・経費となるにしても、一年で全額を経費にできるのか? そうでないのか?
により、不動産賃貸業開始年の手残り(税引き後の収支)は大きく変わります。
ご質問が多いのは、ごもっとも…と感じました。
前置きが長くなりましたが、本題に戻ります。
結論から申し上げます。
税務(※)では、不動産賃貸業を開始する前のリフォーム工事は、その内容が世間一般的にみて「修繕」であっても、その金額は「修繕費」に該当しません。
したがって、一年での経費計上はできません。
(※)個人事業主対象の所得税のみならず、法人税でも、同様に考えます。
固定資産(減価償却資産)として、使う期間(耐用年数)に応じた複数年にて経費化します。
目次(Table of contents)
税務での「修繕費」とは?
「修繕費」の原則(注)は、法令ベースで、以下のように定められています。
「業務用の建物、機械、装置、器具及び備品などの修繕に要した費用は、経費に算入されます。また、業務用に借りた建物などを借主が修繕した場合の費用も、貸主にその費用を請求できないものは、経費に算入できます。」(所得税法施行令181)
(注)修繕費や改良費などその名目にかかわらず、「資本的支出」となるものは、資本的支出として減価償却の対象となり、「修繕費」として経費に算入することはできませんが、本解説では説明を省きます。
「業務用(業務の用に供している)」という言葉に、ご注目ください。
不動産賃貸業の場合、「リフォーム工事が完了し、入居募集をはじめた以降の物件を『業務用』とみる」とされています。
すなわち、税法は、入居募集をはじめた後に、修理(原状回復)・通常の維持管理などのため、事後的に支払うものに限り、支出年に修繕費(経費)とすることを認めているのです。
家屋等の「取得価額」に含め減価償却を通して、複数年で経費化
それでは、賃貸業をはじめる前(入居募集開始前)のリフォーム工事費は、どのような取り扱いになるのでしょうか?
もともとお住まいになられていた「古い自宅」、あるいは、新たに購入された「中古の空き家」のままでは、テナントさんの入居は厳しい、つまり、長期にわたる「もうけ」は期待しがたいですよね。
そうした状況を変えるべく、「古い自宅」や「中古の空き家」の現況を、長期にわたる「もうけ」を期待できる水準まで引き上げるために、リフォーム工事を発注するわけです。
以上を整理すると、このリフォーム工事費は、
①「古い自宅」あるいは「中古の空き家屋」という「固定資産」が、
②本来の役割である「もうけ」を生み出すための、
③直接的な追加支出(投資)、
と、位置づけることができます。
税務では、こうした支出を「業務の用に供するために直接要した金額」と呼びます。
そして、
①この「業務の用に供するために直接要した金額」も、「もうけ」を生み出す「固定資産」の原価(=取得価額)の一部と捉え、
②もともとの「古い自宅」にかかる建設コスト(=取得原価)、あるいは、「中古の空き家屋」にかかる購入コスト(=取得原価)と同様に、
③使う期間(耐用年数)に応じて目減りする資産価値相当を、複数年で経費化(=減価償却計算)していきます。
なお、減価償却計算は、工事の支出明細ごとに資産の種類を定めたうえで、所定の方法により行いますが、ここでは省きます。
そのほかの注意点としては、リフォーム工事代金の全てが「業務の用に供するために直接要した金額」に該当しません。
例えば、もともとの「古い自宅」にあった家財類の処分費は、プライベートの費用(家事費)となり、「業務の用に供するために直接要した金額」からは除かれます。
まとめ
賃貸業開始前のリフォーム工事は、
・時間の経過とともに老朽化した家屋や設備の原状回復、
・あるいは、何年かスキップしてきた維持管理相当の手当て、
などが殆んどでしょう。
工事会社からの見積り書などをご覧になられた納税者が「原状回復的な工事 → 修繕? → その支出した年に経費計上できる?」と受け取られるのは、無理ないことです。
しかし、今のルールでは、工事の内容が、世間一般的な「修繕」に合致していたとしても、税務的には「修繕費」に該当せず、その年に全額を経費にできません。
本年・令和3年も、コロナ禍が長引くなか、副収入確保の観点などから、物件のリフォーム後に賃貸業を新たに始められた方は少なくないと思います。
リフォーム工事自体の内容は同じでも、
・賃貸業の開始前?
・それとも、賃貸業の開始した後の支出?
で、取り扱いは違います。
手残りへのインパクトも大きいので、ご留意ください。
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