「孫」を保険金受取人とする保険加入は、慎重に検討を
先日、とあるメルマガで、「家族や孫へ資産を賢く遺す方法」という趣旨のコラムがあり、その方法(複数)のトップに、相続税の生命保険の非課税限度額の活用が記されていました。
(カッコ内の、太字および下線は、ブログ筆者が付したもの)
生命保険は、保険契約者が望む人に対してお金を確実に届けることができます。
そのため、自社株や不動産など分割あるいは換金が困難な財産が多いとき等に、資産保有者が、遺産分割のバランス調整、あるいは、資産承継者の納税資金としても、活用しています。
積極的な検討に値する、と言えましょう。
しかし、「孫」を保険受取人とする保険加入については、慎重な検討が必要です。
目次(Table of contents)
「代襲相続人である孫」また「孫養子」でないと、生命保険等の非課税限度額は使えない
亡くなった人が保険料を支払っていた死亡保険金は、保険金受取人からの保険請求権に基づき、保険会社から支払われます。
厳密には、保険金受取人の固有の財産です。
が、税法では、
① 亡くなった方が生前に負担していた保険金をベースに、
② 保険金受取人が、相続を機に、経済的価値を得る、
③ その”実質”に着目し、
死亡保険金等を「相続税のかかる財産」に組み入れています(みなし相続財産)。
とはいえ、死亡保険等は、故人が自らのために加入するものではなく、残された家族の生活保障等のために掛けるもの。
そうした国民感情などを考慮し、概要以下の、いわゆる「生命保険金等の非課税」措置が講じられています。
相続人が保険金を受け取ったとき、トータルで「500万円 ×『法定相続人の数』」までは、非課税となります。
非課税限度額 | 500万円 × 「法定相続人の数」 |
適用対象者 | 相続人 |
対象となる生命保険金 | 相続人が取得した 死亡保険金 |
そのほか | 「相続人の取得した保険金の合計金額」が「非課税限度額」を超えるときは、各相続人の「非課税限度額」は、それぞれの取得保険金の比であん分したものとする |
ここでのポイントは、非課税措置の対象は、
- 「相続人が取得した」死亡保険金、
と限定されている点です。
亡くなった人が祖父母のとき、どのような立場の孫なら「相続人」に該当するのでしょうか。
通常は、以下の二ケースです。
① 養子となった孫、いわゆる孫養子、
② 子どもが先に死亡しているときの、代襲相続人たる孫(イメージは、もともと相続権を有していた「子」の身代わり相続人)。
うら返すと、 亡くなった祖父母が、
① その孫を「養子」としていない、
② 直系の「その孫の親である、子ども」が存命、
の場合、孫は、亡くなった祖父母の「相続人」となりません。
このような「相続人でない孫」にとって、取得した死亡保険金は、相続税法上、どうような扱いになるのでしょうか?
答えは、
- 「みなし相続財産」である以上、「相続税のかかる財産」に該当、
- その一方、「相続人でない」ため、「相続人が取得した 死亡保険金」には該当しないため、「死亡保険金の非課税措置」の対象外、
- つまり、死亡保険の全額が「相続税のかかる財産」に含まれる、
となります。
したがって、この相続案件の全体ベースで、「相続税のかかる財産」の額は増加することから、ほかの相続人の納税額も増える筋合いにあります。
なお、「相続人でない孫」が受け取った保険金は、亡くなった人より「遺言に基づき、財産の移転を受けたもの(「遺贈」により取得)」として扱われます。
さらなる連鎖(その1)‥相続税の2割加算の対象
さらに、上記のような「相続人でない孫」について相続税額を計算する場合に、各人が取得する「相続税の係る財産」の合計額が相続税・基礎控除を超えるとき、つまり、相続税の納税が生じるとき、その孫が納める相続税は「2割増し」になります。
この「2割増し」の主な理由は、”国の目線”で以下です。
- 被相続人が孫に財産を「遺贈」したときは、相続税の課税を1回免れることができる。
- 財産の取得について、“偶然性”が高い。そのため、税金を多めに支払っても、その後の生活などへの影響は少ない。
さらなる連鎖「その2」…亡くなる前3年以内の、暦年贈与財産の加算の対象
もう一つ、思いがけない影響が生じる可能性があります。
それは、その孫が、その祖父母が亡くなる3年以内に暦年課税贈与により受けた財産も、「相続税のかかる課税」に加えられることです(以下、生前贈与財産の加算)。
「孫は、相続人でない」を意識されつつ、可愛い孫たちへ暦年贈与されている祖父母は、結構おられるのではないでしょうか。
〇以下のブログ、乞うご参照
⇒ 生前贈与(110万円控除の暦年課税)が認められなくなる? 生前贈与をひもとく③…孫への生前贈与(「贈与契約書」のサンプルつき)
ただ、「相続人でない孫」を保険受取人とする保険契約に基づき、孫が死亡保険金を取得すると、
- その孫は、「遺言により財産移転が生じた」当事者のひとりとみなされ、その相続にかかる相続税の計算の対象者となり、
- これまでは適用外であった「生前贈与財産の加算」ルールから免れることは許されず、
- その保険金だけでなく、祖父母が亡くなる前の3年以内に暦年贈与の方法で祖父母よりもらった財産も、
相続税の対象となります。
コツコツと実行されてきたことの一部が、無駄になる可能性が生じます。
むすび
本日も、最後までお読みいただきありがとうございました。
生命保険は、身近なもの。
ただ、用語や課税関係は、ことのほか難解です。
適切に加入されないと、本日、記したようなことも起こり得ます。
ご心配な方は、ご加入の前に、保険会社や専門家などに よく確認なさってください。