相続税の税務調査で、通帳は何年分までさかのぼって見られるのか?①
一昨日の日本経済新聞(朝刊)「マネーのまなび」欄に、タイトル「税務調査、相続税に包囲網」という 1ページ記事が乗っていました。
その中で、「税務調査への対応」として、
① 被相続人の財産の増減と理由を十分な裏付けのある資料で示すことも大切、
② その一例として、被相続人等の過去3~5年間の預貯金通帳が必要、
との記述がありました。
私も、①の「被相続人の財産の増減と理由を十分な裏付けのある資料で示すこと」に同感です。
ただし、相続税の税務調査において、税務署がさかのぼって見る口座の出入りは、過去3~5年間にとどまりません。
税務署は、
① 金融機関のデータについて、少なくとも10年前まで、さかのぼって見ている、
② 税務調査においても、そうして収集したデータを綿密に分析したうえで、納税者を訪ねてくる、
と、お考え下さい。
なぜ、そのようにお伝えしたいのか?
実際の話だからです。
約9半前に他界した、私の親戚の相続税申告について、ほかの親戚が税務調査を受けました。
そのとき、税務署は、相続開始からさかのぼること約6年半(税務調査日を起点にすると、約8年)の、預金口座の出入りを事前に調査してました。
その際、税務署が親戚宅に残していった「手控え」などをベースに、税務署は、
・何年分までさかのぼって、取引記録を見ているのか?
・そもそも、預金口座をどのように捉えているのか?
・過去(Max.10年)のお金の出入りについて、何をどのように調査しているのか?
を、二回に分けて解説します。
目次(Table of contents)
10年分は、さかのぼって見ることができる
事前調査は、「5年超」のスパン
その「手控え」のイメージは、以下です。
この「手控え」の最上段の日付けは、平成17年9月初。
一方、この相続にかかる親族が他界したのは、平成24年4月上旬。6年7カ月前となります。
また、税務調査日を起点にすると、約8年前となります。
(くどいですが、3~5年前ではありません)
さらに、100万以上の大口出金を、網羅的にチェックしている姿勢がうかがえます。
とはいえ、「100万円未満、例えば、30万円程度の出金なら、『おとがめなし』か‥」とみるのは禁物です。
この私の親戚にかかる相続税実地調査は、年間1万件を超える調査のうちの 一件にすぎません。
例え、30万程度の出金でも、それが連続していれば、税務署の目にとまります。
なお、この税務申告を手がけていただいたのは、遺産相続した親戚(在、関西)の顔なじみの税理士です。
その親戚の記憶によれば、その税理士からは、「被相続人の財産の増減や口座間移動を調べたい。ついては、過去X年分の預金通帳などを見せてほしい」などの依頼はありませんでした。
(私自身、この税理士を責める気持ちは、一切ありません。このころには、私は、税理士試験の勉強をはじめていました。注意喚起すべきだった、と自戒しています)。
金融機関は、過去10年分の取引履歴を開示できる
税務署は、相続税や贈与税の調査について金融機関に対し、その納税義務者等にかかる取引データの開示を命じることができます(国税通則法第74条の3)。
それでは、金融機関は、預金の取引履歴などを、どこまでさかのぼって保管、そして相続人等へ開示できるのでしょうか。
公開情報では、確かなところは伺えません。
ただ、ゆうちょ銀行や みずほ銀行(みずほダイレクト通帳)などは、一般預金者からの照会に対して「直近10年分の入出金の照会は可能」と述べています。
ほかの銀行もおおむね同様であり、金融機関は「さかのぼって10年分は、取引履歴を開示できる」と解せられています。
(「依頼時点から、10年分」という意味です。故人(被相続人)が、お亡くなる前の10年分ではありません。ご注意ください)
したがって、税務署は、被相続人と取引のあった金融機関について、
・過去10年分の取引データは、いつでも調査できる、
・また、仮に「調査にうかがう」との連絡あれば、過去10年分のデータはチェック済み、
と捉えましょう。
税務署は、「預金の名義人」と「実質的な管理者」の区分に こだわる
「手控え」の(2)をご覧ください。
銀行との関係においては、預金者は「A」(私の親戚)です。
言いかえると、市民的な感覚すると、
・この口座は、「Aの預金」で、
・この口座からのお金の出入りは、「Aの意思での、Aのお金の出し入れ」
となります。
これに対し、税務署の「見立て」はいかがでしょうか。
「A 名義」と(わざわざ)記しています。
税務署は、
・もともとの、お金の出どころ、
・実質的な口座の管理者、
の双方が一致して(はじめて)「その人の財産」とする姿勢が、ここにも見てとれます。
むすび
故人(被相続人)の資金移動を調べることは、時として、途方もない作業になります。
一昨日の日経記事の「3~5年」でも、「長いな…」と感じられた方は多いでしょう。
が、税務署は、確実に「3~5年」超のスパンで調査しています。
「過去(Max.10年)のお金の出入りについて、何をどのように調査しているのか?」は、後日、改めて記します。