経営の根幹をなす「株主構成」、その着目度は上がっています ~金融機関はココを見ている、「中小企業」の決算書②

本日は、「株主構成」です。

「株主構成」は、決算書の記載事項ではありません。

が、銀行は、
・会社が融資を初めて受けようとするとき、
・また、その後、融資を実行している期間において、
お客様から提出いただく法人税申告書「別表2:同族会社等の判定に関する明細書」などをベースに、きめ細かく、株主構成をチェックします。

本日は、
・銀行がどのような視点で「株主構成」をみているのか、
・また、近年、その着目度がアップしている背景、
などを解説します。

「株主構成」についての銀行の視点

概要

銀行が確認しようとしているところは、
経営者議決権比率(資産管理会社が設立されているときは、経営者の持ち分に準じて扱います)、
経営者一族(イメージ的には、配偶者・直系血族・兄弟姉妹)の議決権比率
「経営者および経営者の一族以外の者」の議決権比率、および、経営者ないし会社とのつながり
 (さらには、経営方針についての“賛同”の程度、継続保有についてのスタンスなど)、
です。

ちなみに、③の「経営者および経営者の一族以外の者」を、ざっくり分類しつつ例示すると、
(1)創業時の、
創業者共同経営者または知人
創業者親戚筋
仕入れ先

(2)経営者の親族以外の、会社の役員社員
(3)ベンチャーキャピタル、または、いわゆる「エンジェル投資家」

(4)互いのシナジー創出を目指す、一般事業会社
(5)親会社、または、兄弟会社
等と、なります。

上記のうち、(1)は、旧商法時代(最低、7名以上の発起人が必要)に設立された会社に、よく見られます。

また、(2)は、創業社長が「会社の『キー・パーソン』に、『経営』を学んでもらうため」などの事由で、親族以外の役社員に一定の株式を譲渡または贈与したケース。

さらに、(3)は、株式公開を目指している、あるいは、過去に目指していた会社などで見られるケースです。
この場合、銀行は、
・その株式公開プラン進捗状況
・あるいは、公開断念していれば、そのベンチャーキャピタルなどの保有株式今後の見通し、
などを、尋ねてきます。

最後に、(5)の親会社兄弟会社について。
銀行は、それらの会社と融資取引がなければ、基本的に、決算書の提出を求めてきます。

銀行は「経営が、スムーズに意思決定できる」を望む

銀行は、融資している法人の経営が安定していることを望みます。

法人の重要事項を決定する株主総会に関連して申し上げると、その承認議決がスムーズに進むよう、経営者 および その一族の議決権比率が、
① できれば、100%、
② 少なくとも、定款の変更や事業譲渡・合併などの重要事項の承認決議が可能な2/3以上、
③ 最低でも、50%超、
であることを望みます。

なぜか?

銀行は、
・経営者、
・および、その経営者さんが遂行されようとしている事業計画、
をみて、融資を実行します。

ついては、おのずと、その経営陣が提出する「株主総会議案」がスムーズに承認される態勢を重視します。

「分散している株主構成」・「少数株主の存在」は、重要な意思決定等の”壁”になる

障害となる典型例は、M&A事業承継のときです。

M&Aに際し、買い手は、基本的に、100%の議決権取得を目指します。
(買収後の経営を円滑に遂行するため、あるいは、税制上のメリットを享受するためです)

そのため、少数株主の存在は、売り手にとっての「足かせ」となります。

また、事業承継(親族内)についても、私自身、複数のオーナー経営者の方から、「後継候補にとって、先代時代の番頭、あるいは、親戚筋などの少数株主の存在ストレスになり、事業承継に消極的‥」とのお話を伺ったことがあります。

さらに、「分散している株主構成」による影響は、創業期成長途上の企業においても、無縁ではありません。
社長が過半数超の議決権割合を有していないため、その思い描く経営改革をスピーディに進められないことは、往々にして起こります。

・経営者の年代、
・あるいは、会社の業歴などに関係なく、
経営者の課題解決をサポートしようと考える銀行員(もちろん、税理士)にとって、株主構成全体の正確な理解は欠かせません。

もう一つ見逃せないのは、最近の「少数株主の権利」についての意識の高まりです。

インターネットだけでなく、書籍でも、
・少数株主の権利、
・少数持ち分を、好条件で処分するにはどのようにすれば良いか?
などを題材にしたものが増えています。

現役の銀行員から、「お客様より、少数株主や所在不明株主への対応について相談を受けることが確実に多くなった」と聞きます。
(少数株主からの買い取り申し出への「自社株買い対応」は、資金繰りに直結します)

むすび

「別表2:同族会社等の判定に関する明細書」は、必ずしも、全株主を網羅ません。

「株式数などが最も多い順から 上位三つの『株主グループ』までの株式数などにより、同族会社か否かを判定することが目的」であるためです(上位三つ以外の「株主グループ」については、税法上、記載の義務なし)。

したがって、経営者の中には、「なぜ、銀行は、株主構成のことを、顧問税理士以上に細かく聞いてくるのだろうか?」と疑問に思われていた方がおられたかもしれません。

その理由には、本日、記したようなところが関係しています。

最後に、これから、起業を検討される方へ。

ほかに共同経営者がおられるとき、均等持ち分(50%:50%)をお考えかもしれません。

しかし、均等持ち分では、これからの会社運営における「重要な意思決定」について、デッドロックになる可能性があります。

ご自身が、できれば 2/3以上、最低でも 51%超の議決権を確保されることをおすすめします。

以上

※ 税金以外の 財務や経理、あるいはM&Aなどについても、お悩みお困りごとをうかがい、解決にむけ助言いたします。⇒ こちらへ