離婚による財産分与と税(その1)‥財産を受ける人の視点で(贈与税・不動産取得税)

昨日の全国紙は、厚生労働省が8月24日に公表した「令和4年度「離婚に関する統計」の概況」のエッセンスを伝えていました。

それによれば、

  1. 統計対象年である2020年の離婚件数は、約19万3千組(2019年は、21万組)、
  2. 同居期間別でみると、夫妻の同居期間「20年以上」の区分は上昇傾向を続け、2020年は離婚件数全体の21.5%に
  3. また、人の一生の間の婚姻率も考慮すると、およそ、結婚した3組に1組が離婚するかたち、

などと。

離婚には、財産分与・慰謝料・年金の分割など、お金の問題がついてまわります。

また、婚姻・同居期間が長いご夫婦であるほど、ともに築かれた財産は多くなり、話し合いにも時間がかかる‥と思われます。

こうしたことを念頭に、財産分与にかかる税金のポイントについて、2回に分けて記します。

本日は、「財産分与により財産を受ける人」サイドの税金です(次回は、「財産を渡す人」にかかる税金について書きます)。

※:以下は、この夏、拙宅ベランダを彩ってくれた朝顔。幸せを呼ぶとされる、原坊さん(サザンオールスターズ)の朝顔の種から育ったものです。

財産分与により、贈与税はかかる?

贈与税とは?

贈与税は、「財産をもらう人=贈与を受ける人」に課せられる国税です。

人の死亡により遺産が移転するときに相続税は課税されます。

この負担をできるだけ減らそうとして、生前に、子どもや配偶者に財産を贈与することが考えられます。

贈与に何らの制限がなければ、生前に贈与を実行し、相続財産を少額におさえる、あるいは、ゼロにすることは、容易に想像できます。

そこで、相続税という課税体系が ”骨抜き”にならぬよう、
・「贈与」という行為に、
・それも「贈与を受ける人」に着目し、
贈与税が課されます。

※ 詳しい贈与税の課税体系は、以下のブログ見出し最後の ”表:贈与税の概要(「暦年課税」と「相続時精算課税」)”をご覧ください。
  こちらをクリックください ⇒”贈与税の概要”

原則、贈与税はかからない

生前贈与等の「贈与」ならば、贈与税は「もらう人」にかかります。

離婚にともなう財産分与も、「贈与」の扱いを受け、贈与税が課税されるのでしょうか?

答えは、通常は(原則的には)、課税されません。

「離婚による財産分与での財産の取得」は、基本的に、「贈与による財産の取得」に該当しません。

その理由を、少し掘り下げて記します。

法律では、贈与は「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受託をすることによって、その効力を生じる。」と規定しています(民法第594条)。

ポイントは、”無償”という部分です。

これに対し、離婚にともなう財産分与には、
① 婚姻中に夫婦が協力しあい築いてきた「財産の清算」としての性格、また、
② 離婚後において生活が不安定になるであろう相手方に対する「扶養料」としての性格、
等があります。

無償”をキーワードとする「贈与」と、こうした性格をおびる「離婚による財産分与」を同列視するのは無理があります。

ただし、「どう考えても、その分与額は過大でしょ!」等となれば、贈与税は課税される

ただし、税務署が以下の二つのケースに該当すると判断すれば、話は変わります

それぞれ「贈与による財産の取得」となり、それぞれの金額が「贈与税のかかる金額」となります。

ケース状況贈与税がかかる金額
分与額が過大である場合分与された財産額が、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額そのほか一切の事情を考慮してもなお過大であると認められる場合その過大である部分の財産額
贈与税・相続税を免れようとした場合離婚が、贈与税・相続税を免れる手段として行われたと認められる場合分与により取得した財産額(上記と異なり、全体の金額)

なお、上記について、明確な判断基準は示されていません。

が、「分与額が過大である場合」は、上で述べた
①「財産の精算」としての性格、あるいは、
② 相手方への「扶養料」としての意味合い、
などを最大限考えても、「その分与額は多すぎるでしょ!」と認定されるケースです。

また、後者の「贈与税・相続税を免れようとした場合」とは、以下のようなケースが該当すると解されています。
① 外形的には、離婚届を作成し役所に提出。が、実態として、その二人は引続き同居し暮らしを営んでいる。
② 離婚して間もなくに、再婚した、
など。

財産分与により、不動産取得税はかかる?

不動産取得税とは?

土地や家屋の購入、贈与、家屋の建築などで不動産を取得したときに、取得した人に対して課税される税金です。

税額は、以下。高額の不動産ならば、結構な金額になります。

土地および家屋(住宅)取得した不動産の価格 (固定資産税評価額)✕ 3%
事務所や店舗などの、住宅以外の家屋取得した不動産の価格 (同上)✕ 4%

不動産取得税は、贈与税(国税)と異なり、地方税です。

地方税ゆえ、各自治体が条例などにより、独自の規定を設けています。

したがって、詳細は、とりわけ後述の「課税されないケース」の取り扱いは、お住まいのエリアの都府県税事務所などにお問い合わせ下さい

原則、不動産取得税はかかります

不動産取得税は、「不動産の所有権の移転」に着目し、有償・無償等を問わず課税されます。
(相続により取得した場合など、一定の場合には課税されません)

離婚による財産分与も、その例外ではありません。

基本的には、課税の対象となり、「財産分与により不動産をもらう人」は、役所から送付される不動産取得税・納税通知書をもって、納期限までに収めます

ただし、一方の単独所有物件が、相手方の単独所有物件に変わるとき等は、課税されないケースあり

とはいえ、東京都は、以下の要件をすべて満たせば、不動産取得税を課税しない特例を設けています。

つまり、財産分与を受ける人にとっては、「課税されないケース」が存在します。

※ 東京都以外にお住まいの方におかれては、同様の特例があるかについて、道府県民税事務所へ必ずご照会ください。
また、東京都についても、この特例については、ウエブサイトで公表してません(わたくしが、チェックした限り)。

【要件】

  1. 分与の対象不動産は、婚姻期間中に取得した不動産であること。
  2. 財産分与前の登記は、ご夫婦どちらか一方だけの単独登記であること。
  3. 財産分与の後は、逆に、相手方の単独所有(登記)になること、
    ⇒ この「2」と「3」が意味するところは‥、
    ・分与前「夫1/1、妻ゼロ」で、分与後は「夫ゼロ、妻1/1」なら、妻に適用あり。
     分与前「夫ゼロ、妻1/1」で、分与後は「夫1/1、妻ゼロ」でも、夫に適用あり。
      
    ・一方、分与前は「夫1/2、妻1/2」で、分与後は「どちらかの単独所有」ならば、適用されません。
  4. この分与の目的は、厳に、婚姻期間に共同して築き上げてきたの財産の精算であること
    ⇒ 慰謝料あるいは扶養のために移転されたものであれば、この規定は適用されません。

など。

イメージとしては‥、
・ピュアーに、婚姻中に夫婦が協力して得た不動産を清算する、
・財産分与前と財産分与後で、それぞれの財産の帰属先が明確になっていること、
が、あげられます。

なお、納税者サイドからの手続きとしては、都税事務所に対し「不動産取得税調査申請書」を提出することから始まります。

ただ、詳細は長くなるため、本日は割愛します。

以上



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