「役員貸付金」は、最も入念にチェックされる ~金融機関はココを見ている「中小企業」の決算書①


銀行での30年弱、プラス、事業会社・財務部での勤務経験をベースに、「金融機関は、取引先の決算書の、①どこを、②どのように、見ているのか」など、経営者の方が融資や経営に活かせる“財務”の考え方を定期的に紹介していきます。

第一回目は、会社から役員へ貸し付けているお金、「役員貸付金」です。

銀行は、お客様の「法人と経営者の『お財布』は、ちゃんと区分されているか?」をチェックする

銀行は、お金を融資しているとき、あるいは、追加の融資を検討するとき、お客様の返済能力とともに、その「資金の使い方」を重視します。

特に同族会社の場合は、
「法人と経営者の資産・経理が明確に区分されている(※)」か
・つまり、法人と経営者の『お財布』は、ちゃんと区分されているか(会社と経営者の間で、お金が「どんぶり勘定」になっていないか)、
を、厳格にチェックします。
(※)出典:金融庁「事業者の皆様へ 円滑な資金供給の促進に向けて」

お客様に融資しているお金、あるいは、お客様へこれから融資しようとするお金が、経営者私的に流用されること(あるいは、その可能性が高いこと)を、銀行は非常に嫌います

「運転資金借入」や「設備借入」など、当初、お客様と約束した「お金の使い方(資金使途)」以外に、融資したお金が使われることは、「道理に合わない」ためです。

その「法人と経営者の資産・経理が明確に区分されている」か否かチェックするときの代表的な勘定科目が、「役員貸付金」なのです(ほかには、「未収入金」や「仮払金」なども、同様の趣旨で検証します)。

銀行は、「法人から経営者へのお金の流れ」をどのように考えているのか

銀行は、「法人から経営者へのお金の流れ」をどのよう考えているのでしょうか?

少し掘り下げます。

銀行は、経営者にお金が支払われるのは
役員報酬などの、会社にとっての経費項目
② あるいは、役員賞与などの利益処分
の二つ。

そのほかの事由で支払われることは「基本的に、あり得ない」と、みています。

言いかえますと、銀行は、資産に計上されている「役員貸付金」を見ると…、
① 法人が、法人の経費と出来ずに経営者へ支出せざるを得ない「訳あり」のお金
② あるいは、本来は経費とすべきにもかかわらず、利益操作のため、「役員貸付金」と(あえて)資産に計上しているのか?
と、疑念を抱きます。

したがって、決算書のバランスシートに「役員貸付金」があると、その内容について、
① どなたあてに、どのような目的で貸し付けられたのか?
② 返済条件、あるいは、返済期限は?
③ 金利は、実際に支払われているのか?
など、尋ねてきます。

さらに、そうしたお客様(法人)へのヒアリングの結果、銀行が「『役員貸付金』の全部または一部は、法人に返済される見込みがない資産」と判断すると、法人の純資産(総資産-総負債)のマイナス項目などと扱われ、銀行の融資への姿勢は後退します

なお、経営者が何らかのプライベート目的で借り入れを行いたいときは、もちろん、銀行は、ビジネスの一環として、その経営者あての融資を検討します。

経営者におかれては、必要資金を「会社を経由して」調達されるではなく、銀行に対し、直接の借り入れを相談なさってください。

意外に多い、「社長自身が気づかれていない『役員貸付金』」

私が銀行で勤務しているとき、社長ご自身は、会社からお金を借りている意識がないにもかかわらず、バランスシートに「役員貸付金」が計上されている決算書を、何度か見かけました。

その幾つかは、
・お取引先が、会計事務所に対し、領収書や請求書などを送付しての伝票入力、いわゆる「記帳代行」を依頼されている場合で、
・期間中の現金出金額に、出金にかかる領収書などの「根拠資料(証ひょう)」の合計が満たないときに、
・その会計事務所が、会社への問い合わせなどを十分に行わないまま、その満たない金額を「役員貸付金」に計上、
しているケースでした。

ちなみに、それらのうちの一つは、機械の購入にかかる領収書を会計事務所へ手渡すのを失念されていたもの。

後日、決算書および申告書は、適正に修正されました。

むすび

上記のような、「不十分な突合作業」などによる「役員貸付金」の計上は、避けましょう。

文字通り「もったいない」です。

ただ、「身に覚えのない『役員貸付金』が計上されてないか」については、月次や決算書の取りまとめの打合せにて、いま一度、ご確認ください。

また、万一、そうしたものが計上されていたなら、会計事務所などに対し「取引銀行が当惑する。こういう処理は困る」とお伝えください。

一方、実態として、経営者の手もと資金で返済しきれない「役員貸付金」があるときは、どのように解消(清算)していくのか。

役員報酬からの返済、個人資産の売却代り金による返済などの方法が考えられます。

ただ、どれが好ましいかについては、それぞれに税務上の注意点(別の機会に、記します)があるほか、役員貸付金の金額規模、経営者の手もと資産や役員報酬の状況など、まさしく、ケースバイケースとなります。

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