貸金庫。契約者に相続が発生すると、銀行は、相続人全員の同意なしに貸金庫をあけない。‥相続財産調査(高齢者の財産管理)①
私には、視覚障害者で独り身の叔父が、京都にいます。
3年半ほど前に、視力が急激に落ち、日々の暮らしが不自由になったため、叔父のような視覚障害者を受け入れてくれる老人ホーム(以下、施設)を探し出し、急ぎ入居させました。
ところが、金融機関の住所変更や、不要になった金融サービスなどの解約は‥、
①視覚障害者ゆえ、銀行などでの必要書類への記入は、叔父ひとりでは不可能、
②認知症ではないものの、年齢(91才)もあり、こみ入ったテーマでのコミュニケーションは困難、
③加えて、直近の2年弱は、新型コロナウイルスの感染拡大で、原則、施設からの外出は不可、
などのため、ほとんどが手つかず。
さらには、叔父が親族から相続で引き継いだ土地・家屋(現状、空き家)も、
①隣地との境界標は見当たらず、
②叔父の手もとに、隣地との境界確定の手がかりとなる建築確認申請等の書類も残っていない、
などの問題を抱えています。
そんなところに、叔父が入居する施設より、「新型コロナウイルスの新規感染者が減少ことから、事由に応じ、短期の外出を認める」との連絡が入ったため、先週の火曜日から木曜日、京都市に戻り、
①ペンディングのままの、金融機関での手続き、
②上記の土地・家屋にかかる、役所調査、
③境界画定についての、不動産会社との打ち合わせ、
などを行いました。
こうした手続き、調査を通し、相続財産調査、高齢者の財産管理などにつき、いくつか考えさせられることがありました。
皆さまのご参考になるところが少しでもあればと思い、シリーズ的に記します。
第一回目は、貸金庫についてです。
目次(Table of contents)
契約者に相続が発生すると、銀行は、相続人全員の同意がないと貸金庫をあけない。
今回の叔父のケースは、本人の希望は、
・貸金庫内の保管物の確認と回収、
・貸金庫契約の解約、
でした。
(ちなみに、その事由は、
① 何かを貸金庫に入れた記憶はあるが、忘れた、
② 目が不自由になったため、もはや、使う意味がない、
③ その一方で、契約は、年間ベースの自動更新で、利用料は自動引落しされているハズ。もったいない、
です)
当日は、その銀行との事前打ち合わせに基づき持参した、所定のカード類や本人確認書類をベースに、手続きはとどこおりなく終わりました。
(必要書類は、私が代理記入しました。代理記入については、別の機会に記します)
ところが、仮に、今回の貸金庫の解約(開閉)が、契約者(=叔父)に相続が発生した後であれば、銀行は、どのように対応したのでしょうか?
様相は、がらりと変わります。
相続人全員の同意書などの提出が、原則、求められます(※)。
※遺言書で、遺言執行者が選任され、かつ、貸金庫を開ける権限が同者に付与されていることが明記されていれば、同者が単独で開けることは可能です。
(ただし、その遺言書を銀行に提示する要あり)
ご参考までに、三井住友銀行のHPによれば、被相続人の契約していた貸金庫を解約(開閉)するためには、以下の書類が必要、と記されています。
(相続登記や、金融機関での相続手続にて要求されるものと、同じレベル感です)
書類の名称 | 備考 |
「相続に関する依頼書」(同行所定の書類) | すべての相続人さまが署名・捺印(実印)済み |
お亡くなりになったお客さまの戸籍謄本(原本) | 発行より1年以内のもので、お生まれになった時から亡くなられた時までの連続した戸籍謄本 |
すべての相続人さまの戸籍抄本または戸籍謄本(原本) | 発行より1年以内のもので、お亡くなりになった方との関係がわかる戸籍抄本または戸籍謄本 (お亡くなりになった方の戸籍謄本で確認できる場合は不要です。) |
すべての相続人さまの印鑑登録証明書(原本) | 発行より6ヵ月以内のもの |
※ 一部の書類については、他の書類の提示にて代替できるものがあります。詳しくは、同行HPなどをお調べください。
これに対し、銀行は、相続発生日などの残高証明書の発行であれば、相続人ひとりからの請求でも対応します。
契約者に相続発生後の貸金にかかる対応とは、大きく異なります。
ちなみに、今回、叔父の貸金庫の解約手続きをした銀行(三井住友銀行では、ありません)の行員さんいわく、「契約者がお亡くなりになったケースでは、こうした『相続人全員の同意書』が必要なことをお伝えすると、当惑される方が少なくない」と。
銀行が、貸金庫の開閉(解約)について「相続人全員」の同意を求める理由
貸金庫内に、財産そのもの、あるいは、権利書など財産にかかる重要書類が保管されている可能性があります。
契約者が亡くなられたとき、これら財産は、相続人の「共有」と扱われます。
(遺言書がない前提です)
すべての相続人の同意なしに、特定の相続人に限り、貸金庫内の財産を確認させることは、相続人の間のトラブル(ex. ものがなくなった! 足りない!など)につながりかねません。
そして、上記の財産や権利書以上に大切なのが、遺言書の有無です。
一例をあげます。
故人が、生前にいったん作成した遺言書を、後日に 書き換えていたケースです。
生前に、公正証書遺言を作ったものの、その後、家族への想いが変わったことなどから、自筆の遺言書(自筆証書遺言)を作成し、それを貸金庫に保管するような場合です。
このときは、公正証書遺言でなく、日付の新しい、自筆証書遺言が優先されます。
仮に、公正証書遺言に基づいて遺産分割協議が整っていたとしても、こうした自筆証書遺言が後日に貸金庫から見つかれば、同協議は「やり直し」となります。
また、相続人ひとりからの請求を認めると、「故人は、もともと遺言書を残していたハズ。それが、貸金庫内にないのは、相続開始後に、ひとりで貸金庫をあけた彼(ないし彼女)が廃棄したのではないか?」などのトラブルを招く可能性があります。
銀行としては、遺産の承継に多大な影響を及ぼす遺言書の存在も念頭に、このような「相続人全員の同意」確認をルール化している、と解されています。
むすび
申すまでもなく、故人が遺言書を残していた場合、遺言書の内容は、資産の承継に決定的な影響を与えます。
(もちろん、思いがけない高価な財産が、貸金庫内に保管されている可能性もあります)
・公正証書遺言の信頼性が、相対的に高いこと、
・また、2021年民法改正による自筆証書遺言の法務局保管の概要、
などが、よく報じられています。
とはいえ、ご自身で作成された自筆証書遺言を、ご自身の貸金庫に保管されている方は、意外と おられるのではないでしょうか?
相続財産調査にあたっては、「相続人全員の同意」が求められることを念頭に、最優先のご対応をおすすめします。
(とりわけ、兄弟姉妹など相続人が多い、あるいは、疎遠、ないし、国外に居住される相続人がおられるケースなど)
以上
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