「フリーランス」狂言師のマーケティング

7/23(金)、大蔵流狂言師で、昨年12月末日に一門(茂山千五郎家)から独立され、「フリーランス」となられた茂山千三郎さん主催の「三ノ会・東京」を観に行って参りました。

私がチケットを購入したのは、「独立」あるいは「フリーランス」となられた後の近況をうかがうためではありません。

当日が、ご長男・郁馬さん(7才)の初舞台、かつ、お二人で演じられる演目が、狂言師の長い修行人生のはじまりとされる大曲「靭猿(うつぼざる)」であったためです。

なお、無粋(?)な私が、茂山千三郎さんから公演会のご案内をいただくようになったきっかけは、今からさかのぼること約40年前の学生時代に、ひょんなことから、千三郎さんとご縁をいただいたことです。

脱線しました。本筋に戻ります。

「三ノ会」当日、三つの演目がスタートする前、千三郎さんからのご挨拶がありました(狂言会で、このようなご挨拶タイムが入るのは異例)。

そのなかで、思いがけず、
・「フリーランス」の狂言師とは、一体どういうものなのか?
・お客様に、本日、足を運んでいただくために、どのような営業(マーケティング)を行ったか、
等についてお話がありました。

「ひとりビジネス」を行っている、あるいは、「ひとりビジネス」の立ち上げを検討されている方に、ご参考になる部分があると存じ、以下ご紹介させていただきます。

※:以下は、演能前の会場(二十五世観世左近記念 観世能楽堂)の舞台

茂山千三郎さんについて

千三郎さんは、大蔵流の狂言師(1964年生まれ)で、京都市にお住まい。

人間国宝の四世・茂山千作さん(十二世茂山千五郎。1919年~2013年)の三男、祖父の三世・茂山千作さん(1896年~1986年)も人間国宝です。

千三郎さんは、茂山千五郎家の狂言師(内弟子さん含め、あわせ二十数名)として、舞台に立たれるだけでなく、狂言のおもしろさ等をより多くの方に伝え、また、狂言自体も進化するよう、
・ラジオ番組のパーソナリティ、
・講演活動(狂言だけでなく、京都の町屋や伝統工芸の紹介等も)、
・狂言をわかりやすく解説する本の執筆、
・オペラやミュージカルの演出、
・新作狂言の創作(「地球温暖化」をテーマにされたものを、なんと2005年に創作!)
など、ご自身いわく「型破り」な活動を展開されてきました。

「フリーランス」狂言師のマーケティング

「フリーランス」狂言師とは?

さて、先週金曜日の会の冒頭の千三郎さんのご挨拶に戻ります。「フリーランス」狂言師について

(「フリーランス」狂言師とは)どこにも所属しない狂言師、すなわち、
・ひとりで事務所を立てて、
・ひとりでチケットを売り、
・ひとりでチケットお申込者からのお問い合わせ電話に答え、
・ひとりでチケットの郵送(切手はり、チケットほかの封入)等の事務作業を行い、
・ひとりで(ご本業の)狂言あるいは謡(うたい)をする、

と、定義されていました。ちなみに、茂山千五郎家に所属のときは、上述の総務的作業は「事務局が全て行っていた」と。

「何から何まで自分でやる」という「ひとり起業」の方と、同一です。

「フリーランス」狂言師のマーケティング

本題です。

まずは、これまでのお客様とのつながりについて、以下のように述べられていました。

(茂山千五郎家に所属当時の)お客様・ファン(のリスト?)は、すべて置いてきた…

と。

確かに、民間企業を退職するとき、「営業情報等を一切持ち出さない」あるいは「一定期間、競業的行為を行わない」等の誓約書を差し入れます。

ただ、長年、ご一緒に活動されてきたご一門との間でも、そうした取り決めがうかがえたことには、率直なところ驚きでした。

それでは、当日の二百数十名(会場の収容人員の50%相当)のお客様は、どのようにお越しになられた(集客された)のでしょうか? 
ましてや、コロナによる行動(営業)制限がかかる、このご時世においてです。

その答えですが、千三郎さんは…、

(最も有効な打ち手は)本年2月から開始のClubhouse(※)。

最終的には、(本日の)お客様の半分以上、150名前後は「『Clubhouse』つながり」で、さらに、そのほとんどの方にとって、本日が「はじめての狂言会」となった

※:音声だけでやり取りするSNS=ソーシャルネットワーキングサービス

と、述べられました。

また、「Clubhouse」の活用以上に、私が「なるほど…」と考えさせられたのは、6月11日に渋谷で、Clubhouse会員限定の「狂言とは、いったい何?」との事前レクチャー会を催されていたことです。

当日のご挨拶では、「その渋谷の会では、狂言についてプライベートも含め、話をさせていただいた」とサラリと述べられただけでした。

が、上に記した通り、千三郎さんのライフワークの一つは、「狂言ってなに?」、「もっと知りたいな」という方に対し、
・「話したり」また「書いたり」することにより、
・今を生きる人々の中に、狂言の裾野をひろげ、
・また、そうした人たちとの交流(響き)から、狂言自体を進化させること、
です。

私自身、その渋谷の会には参加しておりませんが、その日、
・ユーモアたっぷり、
・そして、軽快に、わかりやすい言葉で、
・時間の許す限り、語られ、また、伝えられた
ことは、容易に想像できます(もちろん、そうした語りは、ご自身の努力の積み上げの賜物)。

この会をもって、
・「『Clubhouse』つながり」のかなりの方が、チケットを実際に申し込まれ、
・そして、当日の会場に足を運ばれる「決定打」になった、
と拝察しました。

もう一つ、「さすが…」と感じたのは、公演後に配布された「東京・三ノ会 アンケート」
今後の「フリーランス」狂言師としての活動に資するよう、練りに練られたものでした。


以上、年齢(57才)に関係なく、「新しいSNS」に迷いなく挑戦し、また、「持ち前のスタイル(わかりやすく言葉で話すこと、等)」を活かし前へ前へと進むことほか、とても大切なことを教えていただきました。

編集後記

千三郎さんと長男・郁馬さんが競演される姿に、私、「天国の四世・千作さんも、ご子息とお孫さんの晴れ舞台を喜んでおられるだろうな」と感じ入り、涙腺がゆるみました。