定款。創業融資をスムーズに進めるためには、「目的」をしぼることも大切 ~金融機関はココを見ている、「中小企業」の決算書③
定款。
事業の目的・商号・本社所在地など、法人の活動や組織の根本原則を記し、会社設立時に欠かせない書面です。
また、金融機関に融資を申し込まれるとき、登記事項証明書(法人登記簿)・決算書・税務申告書などとともに、提出が求められる書類でもあります。
それでは、金融機関が、定款の内容を確認するときに、重視する項目はどれでしょうか?
定款は「会社の憲法」とも称されるだけに、いずれも重要な項目ばかり‥。
私は、その中でも、「目的」、つまり、「会社の目的となる具体的な事業」は、最も入念にチェックされると考えます。
一方、会社設立に関する書籍などを見ていますと、「目的」については、「すぐに手掛ける事業」に加えて‥
・先行き、開始する可能性がある、
・あるいは、興味をいだいているビジネス、
にかかる「目的」も、「将来の拡大に備え、盛り込んでいこう」などと記しているものが少なくありません。
会社の設立後に、定款の「目的」を追加(変更)しようとなれば、株主総会の特別決議(※)を経て、法務局への定款変更の登記が必要です。
※ 議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の2/3以上の賛成を得ることが必要
手続きにかかる時間、登録免許税(数万円程度)などのコストがかかります。
そのため、会社設立のタイミングで「将来の拡大などに備え、少しでも可能性あるものは、すべて記す」という見方には、確かに一理あります。
ただ、創業融資の審査をスムーズに進めるためには、あえて「定款に記す『目的』をしぼる(書きすぎない)」視点も大切、と考えます。
本日は、
・「目的」について、金融機関が何をチェックしているか、
・なぜ、「目的」をしぼる視点は大切か、
について、記します。
〇 文京区・本駒込の公園のキンモクセイ(金木犀)。若いころより、この季節のキンモクセイの香りが好きです。
目次(Table of contents)
「目的」について、金融機関は何をチェックしているか?
金融機関は、創業融資、あるいは、新たなお客様から融資の相談を受けるとき、事業計画書などの提出資料や面談を通して、
①お客様のビジネスモデル(誰に、何を、どのように提供し、どのように利益を生むのか)、
②お客様の属する業界の大きな潮流、
③そして、将来、融資するお金が返済されるか否か(信用リスク)、
などの把握に努めます。
このプロセスの初期段階にて、定款の「目的」の記載内容は、事業計画書などとともに必ず確認されます。
この記事を読まれている方の中には、「事業計画書の大切さは、分かる。しかし、銀行は、定款の『目的』の記載まで、本当にチェックする?」とお感じの方がおられるかもしれません。
金融機関は、「定款」の内容を検証するのか?
答えは、「Yes」です。
銀行員は、法人のお客様との新たな融資にかかる基礎実務の一つとして、以下をたたきこまれています。
① 法人あて融資(=取引行為)は、その法人の定款に定められた「目的」の範囲内であることが必要。
② なぜなら、その法人は、その定められた「目的」の範囲に限り、権利・義務の主体となれる(権利をもつ、義務を負うなど、法的に認められた団体になる)ため。
③プラス、融資については、代表権を有する代表者(=社長)と取引すること。
したがって、新たな融資に際しては、
①融資対象となる事業が「目的」に記載されているか?
②さらに、その事業は許認可(許可・認可・登録・届け出)が必要か?
必要ならば、その手続きは済んでいるか?
などは、必ず確認されます。
なぜ、「目的」をしぼる視点も大切か?
会社の「経営理念」・「ビジョン」などが、わかりやすくなる
支店の規模により左右されますが、銀行の支店は、支店長を頂点に、副支店長、次長ないし課長、担当者という順番になっています。
創業融資は、他の融資と同様に、通常、担当者が、お客様との何回かの打ち合わせを踏まえ、稟議書を整え、次長ないし課長→副支店長→支店長(※)という順で検討していきます。
※ 金融機関の融資ルール運営次第ながら、「一定のものは、創業融資でも本部決裁扱い」の銀行があるかもしれません。
このときに、留意いただきたいのは、稟議書は、書面(あるいは、デジタル資料)ベースでなされること。
担当者は、お客様の事業に対応する「想い」や「熱量」を共有しています。
会社のビジョンや事業計画の内容などについて、直属の上司である次長や課長から質問を受けても、お客様の「想い」などを的確に伝えるでしょう。
しかし、稟議書が担当者の手もとから離れ、ステップを踏めば踏むほど、判断は書面ベースになります。
このとき、事業計画にリンクしていない「目的」の記載が多すぎると、「経営理念」や「ビジョン」は見えにくくなります。
つまり、支店長などの最終権限者からすると、「この会社は、何をゴールに、どの事業をどのように進めていくのか?」の判断がしづらくなります。
ひいては、審査が長引く、あるいは、最悪、融資がおりない可能性も出てきます。
逆に、「すぐに始められる予定のない事業」の記載は控えられた方が、「この会社は何をする会社か?」はクリアーとなり、事業にかける社長「想い」なども伝わり易くなります。
「実態がつかみにくいなあ‥」などと、銀行に言わせないことが大切です。
金融機関ごとの融資基準(行内ルール)に抵触する可能性が、下がる
私の銀行員時代、一定の風俗営業や金融業などについては、審査が進みませんでした。
また、以下は、事業会社の財務部に勤務していた、今から2年から3年あまり前の話になります。
当時、お取引をいただいていた各金融機関の方と、スタートアップ・ビジネスの支援につき意見交換することがあったのですが、
・仮想通貨取引、
・あるいは、民泊、
などについては、「創業者融資の審査姿勢は慎重、ないし、審査に時間がかかる」旨、うかがいました。
法整備がおくれ気味の「ニュービジネス」などについては、銀行自体に融資実績が積みあがっていないこともあり、どうしても、銀行は、その審査に慎重になる傾向があります。
(もちろん、そうした「ニュービジネス」がメインの事業ならば、それをコアにした事業計画書を作成され、銀行にご相談ください)
設定する事業目的を検討されるに際しては、上記のように、「各金融機関は、(そのときどきながら)業種についての、何らかの融資基準を設けているかも‥」とお考えください。
むすび
定款に設定する事業「目的」の数に、制限はありません。
とはいえ、会社設立時に、たくさんの「目的」(とくに、事業計画書の範囲を超えたもの)を記載すると、副作用と申しますか、デメリットも生じてきます。
(事業「目的」を検証するのは、銀行だけはありません。お取引先も、 登記事項証明書 を取得し、事業「目的」を確認することがあります)
なお、すぐに開始される予定のない事業を「目的」に記載されるときは、銀行からの問い合わせなどに備え、あらかじめ、返答要領のご準備を。
また、許認可が必要な事業を記載されたときは、許認可の手続きも 手抜かりなく、お進めください。
以上
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