外国人材が永住権を取得するときの留意点(①):国外転出時課税
一昨日(8月21日)の日経新聞に「政府は、在留外国人の永住申請を、2025年度よりオンライン対応とすべく、予算措置を講じる」との記事が掲載されていました。
日経は、背景として、外国人労働者の門戸を広げる政府方針をあげつつ、「制度拡充により永住を希望する人は増えるとみられる」と指摘しています。
確かに‥。ただ、外国人材にとって、永住申請は重い判断です。
わたくしも、高度専門職や経営・管理などの「活動資格」ビザに基づき滞在されている外国人材より「日本での生活が好き。次の在留資格更新のときに、永住申請すべきがどうか検討中。とはいえ、気ががりなのは、税金。留意すべきことは?」との質問を受けることが増えています。
外国人材が、「活動資格」ビザより、永住者などの「居住資格」ビザに切り替えるときに、税務上の留意点としては、大きく2つあります。
- 相続・贈与税が、国外にある財産まで対象等になる可能性が高まること、
- 何らかの事情で、日本国外に転出されると、その方が保有する有価証券(海外証券会社での預かりも含む)の含み益に対して所得税が課税されるリスクがあること。
前者については、なんとなく耳にされている外国人材は、そこそこ、おられます。
が、後者については、既にご存知の方は、実に少ないと感じます。
本日は、「有価証券の含み益に対して所得税が課税されるリスク」の概要を、在留資格の切り替えなどを検討される外国人材の方の目線より、記します。
目次(Table of contents)
有価証券の含み益へのみなし所得税:国外転出時課税
有価証券などの譲渡所得は、その有価証券などが売却されたタイミングに着目し、そのとき、その売却者が住んでいる国においてキャピタルゲイン課税されるのが一般的です。
ただ、巨額の含み益を有する有価証券などを保有したまま日本国外に転出し、キャピタルゲイン税率が低い、あるいは、ゼロの国で売却することにより、有価証券などの課税を免れるケースが発生していました。
このため、2015年7月1日以降、
- 日本国外に転出する一定の居住者(注1)が、
- 時価ベースで合計額が1億円以上の有価証券や未決済デリバティブ取引などを所有しているときには、
その国内転出時に、実際には有価証券などの譲渡などを行っていなくとも、その含み益を実現したと「みなして」その含み益に所得税を課税する仕組みが設けられました。
(注1)所得税法が定める居住者を指します。くわしくは、以下のブログをご参照ください。
「居住者」と「非居住者」、「非居住者」に対する所得税 ‥国際課税の基本①
「国外転出時課税」と呼ばれる制度です。
今日のブロクでも、以下、この呼称を使います。
なお、上記「1」の1億円以上の判定については、国外で所有しているものも含みます。外国人材にとっては、「ぎびしい措置」と映るポイントの一つです。
さらには、含み損を抱えているもの、あるいは、NISA口座内の有価証券なども含める必要があります。
在留資格の種類と、国外転出時課税
この仕組みの対象となる居住者は、法令ベースで、
- 国外転出(国内に住所または居所を有しなくなること)をする日前十年以内において、国内に5年を超えて住所または居所を有していた居住者、
- ただし、国内に住所または居所を有していた期間については、出入国管理及び難民認定法・別表第一の上欄の在留資格をもつて在留していた期間を除く。
となっています。
ここでポイントなるのは、後半の在留資格にかかる部分です。
在留資格は、
・就労など定められた活動のために与えられるもの(活動資格ビザ)、
・定められた地位に基づき与えられるもの(居住資格ビザ)、
の2つに分けられており、前者が別表第一、後者が別表第二に示されています。
◯ 資格の種類 ~
[別表第一:活動資格]
就労資格など | 外交、公用、教授、高度専門職、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、特定技能、技能実習など |
非就労資格など | 文化活動、短期滞在、留学、研修、家族滞在 |
ほか | 特定活動 |
[別表第二:居住資格]
永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者 |
別表第一に記されている在留資格(活動資格ビザ)を更新し続け、日本に住まれている外国人材Aさんがおられる、と仮定しましょう。
Aさんの在留期間は、国外転出時課税が規定する「在留していた期間」から除かれます。
(就労目的などで日本に一時滞在される外国人材に、この制度を適用するのは「あまりにシビアー‥」という考慮があったのでしょう)
したがって、この課税措置の対象になる可能性は出てきません。
ところが、
① Aさん本人が、別表第一の在留資格の期限到来時に、別表第二の「永住者」(居住資格ビザ)に切り替え、
② あるいは、日本人と結婚され「日本人の配偶者」(同上)をもって日本に滞在することに変更、
となれば、どうなるでしょうか?
いずれも、別表一でなく、別表二の在留資格に基づき、日本に住まわれることとなります。
おわかりですね? 「国外転出時課税」の国内在住期間の判定にカウントされます。
そして、上記の10年以内において、国内在住期間が5年を超えると、この制度の対象となり得ます。
(ただ、国外転出時の、有価証券などの時価合計額が1億円未満であれば、最終的には、課税されません)
【注記】
2015年6月30日までに別表第二の在留資格(永住者、永住者の配偶者等、定住者など)で在留している期間があるときは、その期間は国内在住期間のカウントに含めません。
「この制度がスタートする以前の期間まで範囲に含めるのは、対象者に不合理すぎる」という考えからです。
国外転出時課税:外国人材にかかる、そのほかの留意点
この対象にかかる申告をした方が国外転出の日から5年(一定のときは、10年)以内に帰国をしたときは、その時点で引続き所有等している有価証券などについては、この措置の摘要がなかったものとして、課税の取り消しを求めることができます。
また、納税猶予(実際には有価証券などを売却していないため、税金を払おうにもお金がない方への制度)の摘要を受けている方に限りますが、国外転出先の国で有価証券などを譲渡し、その国で所得税などを納付したときは、日本で外国税額控除を受けることができます。
ただ、これらについての詳しい説明は省略します。
むすび
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
永住ビザを含め在留資格にかかる申請手続きがオンライン化されることは、望ましいことです
(日本語以外でのサポートが どこまで備わっているかは、気になりますが‥)。
その一方、在留資格の選択が外国人材の税金にどのような影響を与えるか、あまり語られてない印象を受けます。
このブログは、後日、英訳します。
また、相続・贈与税についても同様に、別途、在留資格の観点から述べます。
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